デジタルの途中【さわれない本物】

佐藤忠彦(IAMASラボ4期生、トリガーデバイス社長)

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こんにちは。最近気になったガジェットやサービスに関して書いて行きたいと思っています。
6/6から行われたAppleWWDCでは今年も興味深い発表が沢山ありました。詳しくはここに
で、私が一番興味深かったのはiTunesMatch(最初は米国から)というサービスです。
これは音楽データをクラウド化する仕組みですが簡単に言うと、手持ちの音楽データがそのままクラウド化するのではなく、自分が所有している曲名情報をサーバーが知っていて、iPhoneなどから曲を選択するとAppleが用意したサーバーにある256kbpsのAACフォーマットのデータが再生されるというモノです。これはもちろんiTunesがその曲を販売している場合のみで、例えばもっている音楽データが全部自作という場合は、普通のクラウドサービスと変わりはありません。
様々な権利の問題はさておき、私が注目したいのは手持ちのデータが例えAMラジオみたいな64KbpsなMP3でもこのクラウドを通せば高音質と呼ばれる256kbpsのAACに変わるという点と、それにより「オリジナル」とも言えるデータがAppleのサーバーの中に存在する事になるという状況です。
iTunesでの状況に限れば、私たちが楽曲を所有するということは、曲を購入したとか、もっているという信用情報があるという事になります。
音楽コンテンツのメディアの変遷は今までも割とドラスティックに行われてきました。アナログレコード、CD、MP3など圧縮フォーマットと、この30年くらいの間で大きく変わっています。その流れからすると、コンテンツそのモノではなく、もう一つ抽象化された情報だけを所有するという形は予想できます。なぜならコンテンツが同じならより流通コストやメディアのコストが低い方がビジネスとして勝利するのは明らかで、今回Appleは音楽コンテンツをこれ以上圧縮できない所まで圧縮して記号化し自社のチャンネルで流通させるという誰も勝てない状況を作り出しました。
ストリーミングで好きな曲をきき放題というビジネスは今までもありましたが、日本では流行りませんでした。おそらく所有という概念がコンテンツを楽しんだり管理したりする時に重要な役割を持っているのでしょう。最も低コストな記号だけを所有させて、Appleサービスで囲い込む今回の戦略はかなり最強なのではないでしょうか。